キリ
暮らしとの関わり
 石黒では、昔から「女の子が生まれたらキリを植えよ、嫁入りする頃にはタンス材となる」と言われ多くの家の周りにキリが植えられた。
 また、キリは火に強く防火の役目も果たすとも言われ、隣家との境に植える家もあった。
 しかし、大木になるにつれ、木の下は畑作は出来ず屋敷地内に植える家は少なくなり、山(作場付近)に植える家が増えた。そして若木のうちは周りを畑にして生長を促進した。
 しかし、山に植えると冬期間にヤマウサギによる食害が多く、藁を巻くなどして被害を防いだ。→食害を受けたキリ
 当時は、外国材の輸入はなく、キリはタンス材や下駄材として木材では最も高価であった。門出村などの桐買いが村々を回り、キリを買い付けた。→下駄屋
 また、村の古老の話によると、車道の開通しない頃は石黒川を流して門出集落まで運搬したものだという。
 その後、中国から安い桐材が輸入されるようになり値段は急落した。
 筆者にとってキリは子どもの頃から身近にある木であったが、蕾から結実までの成長過程が理解できなかった。豪雪地の石黒では枝下が高く開花結実を間近で観察できず、謎に包まれた樹木ように思われた。一時期は、葉と若い果実と、成熟したように見える蕾が一枝に同居しているのだから、遠目に見ると混乱してしまう。とにかく、蕾と花と果実をしっかりと見分ければそれでよいのだが、曖昧なままで過ごしてきた。80才半ばにして今、漸くキリという植物の生態を理解することが出来たような気がする。(2019年)
 人であれ、草木であれ相手について新しい発見をするということは、とりもなおさず新しい出会いであり相手に対する親愛が一層深まる喜ばしいことである。
 キリはゴマノハグサ科のキリ属に分類されていたこともあり、いわば草系に分類された特殊な樹木とも言えよう。確かに葉の様子などは草っぽい感じがする。
 市街地周辺では、目線の高さでキリの開花までを観察できる機会に恵まれる事が多い。HPでキリのページを作るにあたり、先ず参照画像→キリの一年-成長の様子を作ってみた。

(撮影日 2020.8.8 松美町)
 2013.3.12 市街地周辺で幹回り150cmほどの見事な大木と出会った。→下写真・場所−藤井.
 2018.6.23 朝の散歩の途中でキリの幼木に出会った。やわらかな巨大な葉を広げていた。
 キリの木は筆者が子どもの頃から、つい10年ほど前まで石黒の生家の屋敷内の同じ場所に何時もあった。キリは20年ほどで桐屋に売り伐採されたが翌年、その切り株から新芽が出てすくすくと成長した。こうして、ほぼ同じ場所に数代にわたって、桐の木が立っている風景のわが家であった。
 子どもの頃には、独特の強い臭気があった事を記憶しているが、今、手で葉を揉んでも微かに匂うばかりである。80才を過ぎて嗅覚が衰えてしまったせいであろうか。

 今にして(2018.10.27)、初めて500円硬貨の表(※製造年のある方が裏面))の図柄がキリの花であることに気づいた。キリの家紋は、明治中期までは菊の花と共に皇室専用の家紋であったといわれる。

 2020.5.23 久しぶりに板畑の嶽を訪れた。帰路、板畑集落の旧家中村治平家に立ち寄った。屋敷に植えられた花をつけたキリの枝が目線の高さまで撓って目を引いた。
 石黒でこのように間近でキリの花を眺めて見たいと思っていた自分は、しばらく見とれていた。 ここは太平洋戦争時に従妹が疎開して過ごした家でもある。想えばそれからすでに70余年もの時が流れている。キリの花と庭を眺めていると、午後の木漏れ日の中で遊んでいる従妹の姿が一瞬見えたような気がした。
 城館山(板畑城址)の方角から頻りにカッコウの鳴き声が聴こえた。耳を澄ますと、遠くで「ポォ、ポォ、ポォ」というツツドリの鳴き声もする。

※板畑中村治平家庭の桐の花
※人生メモ帳20160716
(写真上2004.9.25 右上2005.5.31 右下2005.8.18)
 

           キリの枝芽
写真 2016.4.9 下藤井

写真 2021.4.13 新田畑

 撮影日 2009.4.27 下石黒

           キリのツボミから開花1

 撮影日 2007.5.21 下石黒

                花期−1
          花期−上写真一部拡大
撮影日 2005.6.9 下石黒

         ツボミから開花まで

写真 2019.5.14 藤元町

              開 花
写真 2021.5.20 藤元町

              花期から果実期へ

 写真 2015.6.2 藤元町

               幼果

写真 2015.6.9 藤井
              果実期-1
写真 2013.6.16 上石黒

 写真 2020.7.8 藤元町

          ツボミ形成期
 写真 2019.8.12 藤元町

            ツボミの形成期

 写真 2013.10.13 上石黒 嶺坂

      晩秋のつぼみの様子(花期Tと同個体)

写真 2014.11.30 下石黒

     冬のつぼみの様子(花期Tと同個体)

写真 2010.1.25 下石黒

         果実と翼のある種子-1

撮影日 2009.10.10 下石黒

             見事な大木

写真 2015.8.13 上石黒旧石黒校校庭

撮影日 2013.3.12 藤井

     海岸のキリ (右は牛が首の層内褶曲)

写真 2016.3.5 笠島

      コンクリートの隙間に生えたキリの実生

 写真 2018.8.1 藤元町

        大きな葉と直立する花序

 写真 2020.6.18 松美町 ※500円硬貨の表面図(右上写真)

解 説
ゴマノハクサ科
 古代に中国より渡来したと伝えられている。本州と九州の各地に植えられている落葉高木
 現在では自生状態のものも多い。
 葉は柄があり大形で対生する。葉の両面には、細かい粘りけのある毛が密生している。幼木の葉は成長した木に比べ非常に大きい(下写真)
 初夏に枝の先に数個の花を密集してつける。花冠は大形の筒状で先端は5裂して唇形となり、長さは5〜6p。淡い紫色で内側に黄色いがある。
 雄しべは4個あり2個ずつ長さが異なる(下写真)
 果実はオニグルミに似た大きな卵形のさく果で割れるとのついた沢山の種子(左下写真)が飛び出す。未熟な果実の表面に毛があり粘つく(写真下)
 


    
大きい幼木の葉

撮影日 2006.8.2 上石黒

 写真 2018.6.23 藤元町

        幼い葉


 写真 2018.6.23 藤元町

      キリの幹

 撮影日 2005.7.4 寄合

       幼木の幹
 写真 2018.6.23 藤元町

        つぼみ

    つぼみから開花2

写真 2007.5.21 下石黒

       キリの花


       花の上下

    長さの異なる雄しべ

撮影日 2009.6.1 上石黒

      花から果実へ

 写真 2020.5.28 藤元町

 花期に見られる前年果実
 写真 2019.5.12 藤元町

   幼果表面の粘り


写真 2015.6.9 藤井

 早くからつくつ来年のつぼみ

写真 2019.8.12 藤元町

    来年のつぼみ
写真 2009.8.15 上石黒

  果実とつぼみをつけた枝
写真 2009.10.10 上石黒

     果実とつぼみ2
写真 2009.12.16 寄合

    未熟な果実と内部

写真 2013.5.16 上石黒

   2室に分かれた果実

写真 2013.5.16 上石黒

     果実の大きさ
写真 2020.7.8 藤元町

   ほぼ成熟した果実

   果実と翼のある種子-2
撮影日 2013.3.12 藤井

 葉痕は後年にわたり残るようだ

       2〜3年後

        数年後

写真 2015.2.6 田塚

 5百円硬貨の表の面に見られる桐

 写真 2018.10.27

 板畑中村治平家庭の桐の花
写真 2020.5.23→拡大クリック

  市街地駐車場の幼木

写真 2018.9.4 市内松美町

  市街地で見られる株立ち

    写真→拡大クリック

 株立ち(4本)と珍しい出会い
 写真 柳田町 2022.6