コオニユリ
暮らしとの関わり
 石黒ではユリを「ヨリ」と呼び、ヨリと言えばコオニユリやオニユリを指した。(ヤマユリは「ヤマユリ」と呼んだ)。 上の写真は寄合集落の松尾神社脇で撮った。背景の山は石黒の伝説に登場する「扇(おおぎ)けやき」だ。
 子どもの頃、夏休みに大豆畑の草取りをした時に見た、炎天下に咲くコオニユリの花の印象は今もミンミンゼミの声とともに脳裏に蘇る。豆畑は緩やかな斜面にあり、その端にコオニユリ十数本植えられていた。
 昔は、このように畑の端や田の畦〔くろ〕などによく見られた。球根を食用にしたためであろう。鱗片にコクのあるうま味がありオニユリに比べ苦みも少ないために正月の吸い物のツマに使われた。
 コオニユリは私の見る限り、ヤマユリと同様、花をつけ始めてから3〜4年過ぎ多数の花が咲くようになるととしては突然、鱗茎が世代交代によって針ほどの太さの苗を残して消滅するように思われる。(筆者は、晩秋に掘り起こして、2〜4個に分球しているものを分離して植え替える→ヤマユリ)。
 
 また、ちょっと面白い経験であったが、今年の夏(2016.8.12)、石黒の庭のコオニユリの花が散った後、鱗茎を太らせるために花冠を基部から切り取っておいたところ、20日ほどして(20169.3)見ると、そこに本来コオニユリには見られないムカゴが3個できていることを発見した(右下写真)。花の基部を切り取られ、種子を作れないためにムカゴによる繁殖手段に切り変えたものと見える。(右下写真)
 その後、知人から、柏崎植物研究グループ会誌の中の「コオニユリ腋芽についての新知見」及び「コオニユリの液芽について」ての文献(2000年)を頂き自分の経験に関連付けて興味深く拝読した。科学的見地と手法により数年に渡って観察された結果の貴重な文献であろうが、筆者のような素人には理解できないところも少なからずあった。
 いわば、筆者は前述した花後のすべての花冠を基部から取り去ったところ3個のムカゴが出現した時には「さてはおまえ、遺伝子の奥の手を使ったなとひどく感心したが、それ以上調べてみようというという気にはならなかった。
 また、5〜6年前、本ページ下に画像にある庭石の鳥海石の割目に実生から生え数年たったコオニユリにムカゴが数個着いた記憶がある。その時はオニユリの実生と見過ごしたが、今にして思うと庭にはコオニユリとヤマユリの外なく、とくにその石の近くに2m近い高さのコオニユリが生えていた。ただし、この石の割れ目の個体のムカゴの記憶は100%正確とは断言できないが、ほぼ間違いない。
 このことから、素人の私には、「何らかの理由で種子を形成するだけの完全な花冠を付けることが出来なかったか、果実期に入る段階で子房部分を失った」ためこの個体は遺伝子の奥深く潜んでいたムカゴを形成する能力を発揮したのではないかと思った。元々私は植物愛好家で研究者ではないので、この程度の結論で満足している。
 (ただ、この論文を拝見して、これら2種の交雑は発生しないものかとの疑問もわいた。その実態については今後知りたいと思う)。
 今年(2017)も、8月下旬に、生家跡の庭石の割れ目で数本のコオニユリの実生が成長して高さ20pほどでそのうち1本がつぼみをつけていた。下の「庭に植えられたコオニユリ」の近くの石であったのでおそらく種子が飛んで割目に入ったものであろう。つぼみをつけたのは1本のみで他の実生は10p程しかなかった。ムカゴは見られなかったが、その逞しい生命力には驚くばかりである。

 ところで、昨日(2017.8.26)に読んだ北条村佐藤家の古文書の中に、西方寺に高柳産の百合根の譲受願いの文があったので、その部分の抜粋を参考までに掲載した。→参考資料
 また、石黒資料館所蔵「覚」(居谷村文書)の中にもユリの代金を御用金から差し引いて清算してほしいとの文面が見られる。→参考文書

(写真2005.7.18 寄合)
※背景の山は扇欅で280年続いた入会地争いの舞台の一つでもある。→石黒の歴史

※コオニユリの群生


        初夏の頃上から見た様子

写真2006.6.3 寄合

           花期の頃の群生の様子

写真2005.8.3 下石黒松沢川(まんぞう川)堰堤脇

      
コオニユリのさく果

撮影2006.10.22落合


            庭に植えられたコオニユリ

  写真2017.8.4下石黒

    庭石の割目から発芽して成長した実生のコオニユリ

写真2017.7.21下石黒


解 説
ユリ科
 日本全土の山地の日当たりの良い所に生える多年草
 鱗茎は白色で地下にでき〔下写真〕オニユリより小形で苦みが少ない。全体は広卵状をしている。
 茎は直立して高さ1〜1.5m。円柱形で、若いときには白い軟毛がある〔左・下写真〕。ムカゴはつかない。暗紫点もない。
 葉は互生し、やや狭い皮針形で多数集まり茎を取り巻いて互生斜開し、鮮緑色。長さ8〜14p、幅は5〜12o。
 花期は7月〜9月。 花には柄があり下向きにつき。大きさはオニユリよりは若干小さい。
 花被片は黄赤色で内面に紫黒色の小点を多数つけて外側に反り返る。雄しべは6個で花の外にまで伸びて暗赤色の花粉を出す〔左上写真〕
 花後、果実〔さく果〕を結ぶ。〔左下写真〕
 オニユリとの区別点は、ムカゴ(葉の付け根につく球根状のもの下写真)がつかないこと、茎に斑点がないことなど。
 名前の由来は小さいオニユリの意味。



     初夏の頃の姿

写真2009.6.3 寄合

    つぼみのできる頃

写真2006.7.8 落合

       つぼみの様子

写真2011.7.21 下石黒

    
    茎の白い軟毛

写真2009.7.12 下石黒

 オニユリの鱗茎写真2009.6.3 寄合

    果実(さく果)

 
写真 2019.9.14 下石黒

  切り取られた花の基部にできたムカゴ

写真2016.9.3下石黒


  ※オニユリのムカゴ−比較資料

写真2007.8.5 大野