たながらイモ
                          田辺雄司
 残雪も消えた頃、日当たりの良い場所にサツマイモの種芋をふせる床〔サツマイモドコ〕を作ります。
 床の中には藁くずや馬ごえなどの堆肥を入れて踏み込み上に藁でおおい発酵熱をおこします。最初の温度は手を入れていられないほどの高温になりますがその後2、3日で温度は下がり30度ほどになります。
 すると、囲炉裏の周りに掘られたサツマイモ貯蔵場所〔イモ置き穴〕から、種芋にふさわしいイモを選んでイモドコの上に順序よく並べて上から3〜5pほど土をかけて置くのでした。
 一週間もしますと柔らかな赤味のある芽が次々と出て来ます。20p位に伸びますと、その中から良く伸びた苗を選んで取ります。こうして2回、3回にわたって苗を取るのでした。
 その後、苗の採取の終わった種芋は掘り出して茹でて食べたものです。苗が栄養を吸い取ったイモですから、中はス〔鬆〕と呼ぶ小さな孔があいていて甘みも何もない、ただ腹の足しになるばかりのものでしたが昔は棄てないで食べたのでした。少しでも腹の足しになれば米を倹約できたからです。「タナガライモを茹でたが食べにきてくんなせえ」などと隣近所に声をかけて楽しそうにお茶のみをしている大人の姿が今も記憶にあります。
〔※敗戦前後には、このタナガライモも食べ物買い出しに行く都会の人には貴重な食料であった〕
 種芋をすべて取りだした後には野菜の苗を植えました。