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          若者とへび嫁
 昔あったてぁ、〔さーすー〕
 ある村に、正直者で心のやさしい働き者の若者がいたと。毎日毎日、田仕事や畑仕事に一生懸命に精を出していたと。
 その日も、天気がいいので若者は朝早くから、汗を流して畑仕事をしていたと。〔さーすー〕
一日が終わり、お天道様が真っ赤な顔をして西の山に沈みはじめたので、若者はお天道様に手を合わせて「今日一日、怪我も病気もしねぇで、働くことが出来ました。ありがとうごぜぇました」とおじぎをしてから家に向かったと。〔さーすー〕
 ほうしたらなぁ。道端に1人のおんなご(若い女)が腹を押さえて、ウンウンとうなっていたと。
 若者は、とんで行って「これ、おなご、どうした、腹でも痛いのか」と聞くと、おなごは「もう何日も何も食べていないので、えぇぶ〔歩く〕こともできねぇんです」と言ったと。
 親切な若者は「そんじゃ、わしの背中に乗れ、ぶって行くからな」と言って、おんなごの前にしゃがんだと。〔さーすー〕
 おなごをおぶった若者は「わしの家に行けば、食べもんはあるから、腹いっぱいたべなせぇ」と言いいながら、背中からずり落ちそうなおんなごを両手で背中におしあげたのだと。するとおんなごの足があんまりつめてぇので不思議に思ったと。だども、まあ、何日も物を食べていないせいだろうと家にむかってせっせと歩いていったと。〔さーすー〕
 若者はやっと家に着くとおんなごを囲炉裏ばたに下ろして、火を焚きつけて「火にあたって体をあっためれや」と言って自分は夕飯の支度をしたと。そして、ようやく夕飯の支度が出来たので「寒かっただろう、さあ、囲炉裏にあたってマンマ食べなせぇ」とご飯とお汁をだしてやったと。〔さーすー〕
 おんなごは、よっぽど腹がすいたらしく、大盛りのご飯を二杯もたべたと。そして、遠慮したような声で「申しわけねぇども油はないでしょうか」と言ったと。
若者は、仏壇の灯心に使う油でよいか、と聞くと「それが一番いい」と言うので皿の中に少し油を入れて渡すとおんなごは、うまそうに油をペロペロなめたて、また、ごはんを一杯食べたと。〔さーすー〕
 次の日から、おなごは朝から晩まで家の中の掃除をしたり、ご飯の支度をしたりして働いたと。
 そうして、十日ほどたったころ、おんなごは若者の前に手をついて「お願いですすけ、わたしをお前さんの嫁にしてくんなせぇ」と頼んだと。
 嫁がほしくてほしくて仕様のなかった若者は、「おう、おう、俺の嫁になってくれるか、それはありがてぇ」と喜んだと。 そしたら、おんなごが、もう一つお願いがあるのですが・・・・と言うので若者が「何でも聞いてやるから言って見なせぇ」と言うと、おんなごはふところから黒い粒の塊のようなものを出して、「これを明日、隣の村の糸屋に持って行って織物糸を買ってきてくんなせぇ、おねがいします」と言ったと。〔さーすー〕
 翌朝、若者はそれが何んだか分からんまま、黒い塊を布に包んで隣村の糸屋に持っていったと。
そして、店に行って織物糸を売ってくれと頼むと、店の主人は「銭はあるのかい」と聞くので若者は「銭はねぇども、おら嫁がくれたもんがある」と昨日嫁からもらった黒い粒の塊を差し出したと。
すると、それを見た店の主人はひっくり返るほど驚いて「こんげぇな高価な薬をお前さんどこで見つけてきたね」と聞くので、若者は、嫁になったおんなごからもらったと話したと。〔さーすー〕
 そしたら、店の主人は、この薬はマムシの胆を干したもので少しずつ飲んでも、痛いところに塗っても、すごい効き目のある高価な薬だと言って、沢山の織物糸を分けてくれたと。
 若者は、背負いきれないほどの織物糸を持って家に帰ってきたと。
 すると、嫁はたいそう喜んで、織物糸を奥の部屋に入れると、また、若者の前で手をついて「申しわけねぇども、油ビンをみたら油がないようだすけ、隣村へ行って油を買ってきてくんなせぇ」と頼んだと。
 若者はまた黒い粒をもらって、隣村の油屋から油をいっぺぇ買ってきたと。
  翌日、若者はよめが布を織るとこが見たいと言うと、嫁は「布を織り終わるまでは決して私が布を織っているところを見ないでください」と言ったと。
若者は、「よし、分かった、一枚織り終わるまでは決して見ない」と約束したと。〔さーすー〕
 それから、嫁は、毎晩、部屋にこもつて灯心の明かりをたよりに機織をしていたと。
 あんまり、朝から晩まで嫁が働くものだから、若者は心配して、少し休むように言うと、嫁は、私は少しもくたびれることはありません、と言うだけだったと。
 それにしても、若者には、このごろ油が減るのが、ばか早いのが不思議で仕方がなかったと。それで一度嫁に聞いてみようと思っていたんだが、ある日、今日ばかりは、聞いてみようと、嫁が織物をしている奥の部屋へ行って戸をそっと少しあけて中をのぞいたと。〔さーすー〕
 部屋の中の娘は、のぞかれていることも知らずに、一生懸命に機織をしていたと。ところが、そのうち嫁の首がヒョロヒョロと伸びて灯心皿の油をぺろぺろなめたのだと。
 若者はたまげてしまって、戸を静かに閉めることも忘れてビシーッと音を立てて戸を閉めてしまったと。
 すると、嫁は見られしまったことを知って悲しげな顔をして若者に向かって言ったと。
「わたくしは、あれほど機織するところを見ないようにとお願いしておいたのに、あなたは、見てしまいました。こうなっては、私はこの家には居られません。
色々とお世話になりました。実は、私は橋の向こうの七つ釜に住んでいる錦ヘビなのです。いままで、お前様をだましたことは、どうか勘弁してください。幸い、反物が一枚出来上がりましたから、これを隣村にもって行って売ってください。」と泣きながら言い伝えると、たちまち大きなニシキヘビの姿になって川の方へずるずると行ってしまったと。〔さーすー〕
 若者は、翌朝さっそく、その反物を隣村の反物屋に持っていくと店の主人は、反物をみて腰を抜かさんばかりに驚いたと。そして、「こんげぇな、立派な反物を一体誰が織ったんじゃ」と若者に聞いたと。
 若者は仕方なく、今までのいきさつを初めから正直に店の主人に話したと。
 それを聞いた店の主人は「昔、あの七ツ釜に洗濯に行った織子〔織物をする女の人〕が、ニシキヘビに飲み込まれたのだと。その後、そのニシキヘビが人間に悪いことをしたことを悔いて人間に化けて織物を織ってくれると聞いたことがある」と教えてくれたと。
 そして、その反物はえらい高い値段で売れたので、若者は沢山のお金をもって家に帰ったと。
  いちがさーけた
             文 田辺雄司 絵 今野ひかり


             
和尚と小僧
 むかし、ある村にお寺が一軒あったとさ。 〔さーすー〕
 お寺には、和尚さんと小僧が住んでいて、あちこちの村をまわってお経を読んでは、お米やお餅などをもらっていたと。
 和尚さんは、いつも小僧のことを「小僧」と呼んでいたのだと。
 それは、暑い夏が過ぎ、秋も過ぎたあとの、冬の夜長のことだってあ。
 和尚さんは、寒いのでお寺の囲炉裏に火を燃やしてあたっていると、小腹がすいてきたんだと。
 そこで、和尚さんは村の人からもらった餅を囲炉裏の灰の中に入れてあぶって食べることにしたんだと。
 餅はしばらくすると、焼けてきてフクッーとふくらんだので和尚さんは火箸で灰の中から餅を出して、「フーフー」と灰を吹いたと。それでも灰が落ちないので手で「パンパン」と叩いたと。
そして、きれいになった餅を和尚さんはおいしそうに食べていたと。  〔さーすー〕
 この様子を、障子の穴からのぞいていた小僧さんは、自分も何とかして、餅を食べたいと思って、よい方法はないかと一晩中考えたと。そして、とうとう、名案を思いついたてあ。
 次の朝、小僧はさっそく和尚さんのところへ行って言ったと。「和尚さん、今日から、私の名前をフーフー、パンパンに変えてください」
すると、和尚さんは、「いつまでも小僧と呼ぶのもかわいそうだなあ、よし、今日からお前の名前をフーフーパンパンにしてくれよう」と言ったと。
 さて、次の日の夜になると、また和尚さんは、囲炉裏に、たき物を燃やしてあたっていたってあ。そして、また餅が食べたくなったので小僧に「フーフーパンパや、お前は、もう寝なさい」と言ったと。
 小僧は、「はい、和尚さま、おやすみなさい」と言って隣の部屋から和尚さんの様子をのぞいていたと。
 それとは知らない和尚さんは、「よしよし、小僧は寝たことだし、餅をあぶって食べるか」と独り言をいって餅を囲炉裏の灰のなかに入れたてぁ。そして、餅が焼けると火箸で取り出して、フーフーと吹いてから手でパンパンと叩いたと。
 それを聞いた小僧は、それっとばかりに囲炉裏のところに行って「和尚さん、何か御用でしょうか」と言ったと。
 和尚さんは、自分ひとりで餅を食うのも小僧に悪いと思って一つ分けてやったと。
 その夜、和尚さんは、わしとしたことが小僧にしてやられたわい、今度は、何とか灰をフーフー、パンパンと払わないで食べる方法はないものか考えたと。
 和尚さんは考えて、次の日の夜、焼いたもちをこすり合わせて灰を落として食べたと。そして、これは、名案だったと喜んでいると、次の朝、小僧が「和尚さん、私の名前を「ザラサラ」という名前に変えてください」と頼んだと。すると和尚さんは「そうか、それじゃザラザラという名前にしよう」とうっかり承知したと。  〔さーすー〕
 そして、その日の昼が過ぎて長い夜がきたと。和尚さんは、囲炉裏端で、一昨日は小僧に一つ食われてしまったが今日は大丈夫と、また、灰の中に餅を入れて焼いたと。
やがて、もちはプクーンとふくらんできたので火箸で上げて二枚をザラザラとこすり合わせたと。
すると、となりの部屋にいた小僧は、それっとばかりに囲炉裏端に行くと、「和尚さま、何か御用でしょうか」と言ったと。
 和尚さんは仕方なく、また餅を一つ小僧に分けてくれたと。
 その夜、和尚さんは、小僧に隠れて餅を食うなんて、わしが悪かった、これからは夜食は二人で仲良く食べることにしよう、と心を入れ替えたと。
 そして次の日からは、和尚さんと小僧は仲良く二人で夜食を食って寝たとさ。  
 エチガサケタ

                   
文 田辺雄司


         
卵の恩返し
  昔、あるところに一軒の百姓屋があったてあ。
 そこの家には、おじいさんとおばあさんが住んでいたと。
 ある時、そこの家で、夜になると玄関で「お晩です、お晩です」と言う声がしたと。ところが、不思議なことに家の人が出てみると誰もいないのだと。
いっときすると、今度は、裏口で「お晩です、お晩です」と言う声がするので出てみると誰もいない。すると、また、玄関で「お晩です、お晩です」と言う声がするのででてみるとやっぱり、誰もいないのだと。
 こんなことが一晩中続くので、おじいさんもおばあさんも夜も眠られないので困っていたってぁ。
〔さーすー〕
 ある晩、また、「お晩です、お晩です」というので玄関に出てみると卵が一つあったと。家の人は、こんげなところに卵が何であるんだろう。と思って拾い上げてみると、卵がしゃべりだしたと。
「どこの家へ行って声をかけても、一度は、玄関に出てくるが2度と出てこない。それなのに、おまえさん方夫婦は、毎日、何度でも、わたしが声をかける度に出てきてくれた。どうか、わたしをこの家に7日7晩泊めてくんなさらんか」と卵がいったと。
 〔さーすー〕
 その家の夫婦は気持ちのやさしい人だったので
「おう、おう、7日でも10日でも泊まらっしゃい」と言ったと。
 そうして、夫婦が「さあ、さあ、家の中に入りなせぇ」と言っても、卵は、なかなか家の中に入らないで「わたしは、この玄関口で結構です、ここならあったかいですから」と言って、卵はそこにミノを敷いて自分で笠をかぶって寝たってぁ。 〔さーすー〕
 翌朝、夫婦が起きて玄関口を見ると、卵の姿はなかったので、こんげぇに早く起きてどこへ行ったのだろうと不思議がったと。さては、狐に化かされたのではなかろうか、と思ったりしたが、夕方になると玄関には、ちゃんとミノの上で笠をかぶって卵がグーグー寝ていたと。
 そんな日が7日続いたってや。8日目の夜、卵は夫婦の前に来て「7日7晩お世話様になりました。お蔭様で子どもたちも大きくなりましたので、これから山の洞穴に帰ります。もう、ミノも笠もいりませんので、おじいさん、おばあさんにさしあげます。どうか、これから、ほんとに困った時に、このミノをきて笠をかぶってください」と言ったてあ。そう言って持ち上げた笠の下を見ると、可愛い7羽のヒナがいたってあ。
 〔さーすー〕
 夫婦は、山へ帰らずに何時までもこの家にいればいいのに、と引き止めたけれど「いいえ、私たちは山に住む生き物ですから」と言って山に帰って行ったと。
 それから、しばらくたったある日、急に雷が鳴り大雨となって、とうとう裏山が土砂崩れを起して泥が家の中に入ってきたと。おじいさんとおばあさんは、驚いて、大急ぎで卵からもらったミノと笠を持って逃げたと。
 近くの山の上に逃げて家の方角を見ると、家は泥水に流されて跡形もなくなっていたってぁ。
 家を流された夫婦は途方にくれてしまったと。おばあさんは「おじいさん、こんなときに卵からもらったミノを着て笠をかぶったらどうだろうかね。」と言ったと。
 それで、おじいさんがミノを着て、おばあさんが笠をかぶってみると、急に2人の体はフワフワと空高く舞い上がったと。そうしたら、あんなに降っていた雨もぱったりと止んで、空は晴れ上がってきたと。
 下のほうを見ると一面に緑の森が広がっていて、その中で金や銀の家が建っていたと。その一軒の庭で
卵と7羽のヒナたちが、手まねきして「降りて来てください」と言っているので2人は降りていったと。
 すると、卵は、「どうぞ、ここで私たちと一緒に暮らしてください。おじいさん、おばあさんのお陰でヒナもこんなに大きくなりました。ここで好きなことをして、好きなものを食べて暮らしてください」と言ったと。
おじいさんと、おばあさんは、何がなんだか分からず、ミノを脱いで見るとミノは金色に輝き、笠は銀色に輝いていたと。
 それから、卵は、2人に、「ここには、恐ろしい化け物もいます。見つかると食べられてしまいます。化け物が来たら、そのミノを着るか笠をかぶれば姿が見えなくなりますから化け物は帰ってしまいます」と教えてくれたと。
 そのお陰でおじいさんとおばあさんは化け物に食べられることもなく、いつまでも元気で、卵と7羽のヒナと一緒に幸せに暮らしたってあ。  エチガサケタと
           
  文 田辺雄司 絵 今野 望


       
ネズミの恩返し
 むかし、おじいさんと、おばあさんがいたってあ。
 ある日、おじいさんが庭をホウキではいていると小さな穴が一つあいていたってあ。 〔さーすー〕
 じいさんは何の穴だろうと、「ばあさんや、豆を持ってきてくれや」と言ったと。
 おばあさんは「あい、あい」と言いながら、豆を一にぎり持って来ておじいさんの手の上においたと。おじいさんは、おばあさんに、「ここに穴があるのでな、この中に豆を一粒いれてみようや」といって豆を一粒入れたと。すると、穴の中から「もう一つほしい、チンカンホイ」という声がしたと。
おじいさんとおばあさんは、もう一粒いれたら「もう一つほしい、チンカンホイ」というこえがしたと。
 おじいさんとおばあさんが、面白がって一にぎりの豆を全部いれたってあ。 〔さーすー〕
 ほうしたらなぁ、穴の中から小さなネズミがゾロゾロと出てきたってあ。 
ネズミは、「たった今は、いっぱいおいしい豆をくださってありがとうございました。お礼がしたいので、どうぞ一緒に穴の中に入ってください」と言うので、おじいさんとおばあさんはネズミの後からついて入ったと。 〔さーすー〕
 ほうしたら、穴の中は、金銀をちりばめたきれいな御殿だったと。
 そこで、ネズミたちはおじいさんとおばあさんに、毎日、沢山のご馳走をしてもてなしてくれたってあ。
だけど、おじいさんもおばあさんも何時までも、ネズミの御殿にいるわけにもいかないので、ある日、家に帰してくれるように言うとネズミたちは沢山のお金をお土産にくれたってあ。
 おじいさんとおばあさんは、家に帰ると「なんて親切なネズミだったことか」と言って、もらってきたお金を仏壇に供えてお参りしたと。 〔さーすー〕
 この話を聞いたとなりの欲張りじいさんが、自分もネズミの御殿に行こうと、庭をホウキではくと、やっぱり小さな穴がひとつあったてあ。欲張りじいさんは、豆がもったいないので、おばあさんに「ネズミにくれるのだすけ、しいな豆や虫食いの豆でよいからいっぱいもって来い」と言いつけて、穴に豆をいれたと。そしたら穴の中から「もうすこしいい豆がほしい」と言う声が聞こえたけれど、そんなことにはかまわず豆をドンドン入れたと。 
 すると、「豆のお礼がしたいので来てください」と言うネズミの声が聞こえたので、欲張り爺さんは、待っていましたとばかりに喜んでおばあさんと2人で穴の中に入っていったってあ。 〔さーすー〕
 だけども穴の中には誰もいないので、じいさんは、
「やい、ネズミ共、早く宝をもってこい」と大声で催促したと。するとネズミが黒いダンゴを沢山持ってきたと。
 ネズミは、これはおじいさんからいただいた豆で作ったダンゴです。どうぞ遠慮しないでたくさん食べてください」と言って差し出しましたと。
 おじいさんが一つダンゴを食べてみると、しいな豆や虫食い豆で作った団子なので食べられんほどまずかったと。
 怒ったおじいさんはネズミを捕まえて殺そうとすると急に穴が真っ暗になってしまったと。
 意地悪おじいさんとおばあんは、やっと出口をみつけて命からがら穴から出ることが出来たと。 
 エチガサケタト
            
 文 田辺雄司 絵 今野ひかり


            
雪あま
 ある村はずれの一軒屋に、正直者のじいさんとばあさんが、ほそぼそくらしていたってあ。〔サースー〕 ある寒い冬の夜のことだってあ、ばあさんとじいさんはいろり端でワラ仕事をしてたってあ。その夜はえれぇ吹雪でビュービューという音が窓の外でしていたと。
 だいぶ夜もふけてきたころ、トントンと入口の戸を叩く音がしたと。ばあさんは、「じいさんや、誰か来たげな、戸を叩く音がするがの」と言うと、じいさんは「風だろや、それともばあさんの耳のせいだろ」と言ったと。するとばあさんは「んにぁ、たしかに戸を叩く音がしましたぜ」と言うので、じいさんは「ヨッコラショ」と立ち上がって、まいかけのワラぼこりを払ってトマグチ〔玄関〕に行って戸をあけたと。
 すると、そこに1人の若い女が立っていたと。〔サースー〕
 じいさんは、「おうおう、こんげな荒れことに、おめぇさんどっから来たがんだ。まあ、家に入っていろり端であっつい湯でも飲みゃっしやい」と言ったと。すると女は、「ありがとうございます。だども、このトマグチの中にいれば風も雪にもあたらんすけ、どうかここで一晩とめてくんなさえ」とじいさんのいうことも聞かずに、そこに座り込んだってあ。
 じいさんは、「座敷にあがればいいものを・・・」と言いながら戸を閉めようとすると女が「申し訳ないどもしばらく毎晩ここに泊めてくんなせぇ。それから食べ物を何でもいいからほんの少しわけてくんなせぇ」と言ったと。じいさんは「ああ、いいとも、今すぐばあさんに熱い団子を持たせるからな」といったと。〔サースー〕
 しばらくして、ばあさんが焼きたての熱い団子を持っていって「さあ、熱いうちに食べやっしゃい」と差し出すと、女は急に泣き出して「私は熱いものはだめなんです。どうかそこに置いてくだせぇ」と言ったと。 じいさんとばあさんは、なんておかしなことを言う女だろうと首をかしげたと。そして、夜もふけてきて囲炉裏の火も弱まってのでじいさんとばあさんはワラ仕事をやめて寝たってあ。
 それから、来る日も来る日も荒れことが続いたと。女は朝になるとどこかに出かけ、夜になるとトマグチに帰ってきては団子をもらって食べていたと。そうこうしているうちに吹雪きもおさまり、雪も止んで陽気が緩んであったかくなってきたと。
 ある朝、じいさんが、「やれやれ、やっと春になってあったかくなったわい」と言いながら土間の戸を開けるとそこに一枚の白い布があったってあ。〔サースー〕
 じいさんが、「はてな、なんだろうか」と言いながら布を持ち上げる、布の下には、たっぷりと水が溜まっていたってあ。じいさんは驚いて、ばあさんを呼んだと。ばあさんは何事だとおもって急いできてみて驚いたと。ふたりが、これは一体どうしたのだろうと首をかしげて立っていると、どこからともなく「長い間、お世話になりました。本当は私は雪あま〔雪女〕なんです。雪はいっこうに怖くないのですが天道様がでて暖かくなのが一番こわいんです。今年もそろそろあったかくなったので私は空の上に帰ります。お礼にその白い着物を置いていくので、暑いときにはそれを役立ててください」という声がきこえてきたと。
 そして、雪も解けて温かい春となり、それから、暑い夏がやってきたと。あんまり暑い夏なもんでばあさんが暑さ負けして寝込んでしまったってあ。じいさんは心配して毎日お宮様にお参りしたと、7日目の朝、お宮様にお参りをしている最中、急に雪あまがくれた白い布のことを思い出したと。
 じいさんは家にとんで帰り、白い布を出してきてウンウンうなって寝ているばあさんの上にかけてやったと。するとばあさんは、たちまち元気になり「じいさん、何日も団子作らんで悪かったのう。今すぐ団子を作るすけ」といって起き上がって団子を作ったと。
 その団子を雪女のくれた白い布の前に供えて「お前様のおかげでばあさんは元通り元気になることができた。ありがたや、ありがたや」と手を合わせて礼を言ったと。イチガサケタ
            
文 田辺雄司 絵 今野ひかり


         
マムシとワラビ
昔、あったてあ。〔サースー〕
ながーい冬が終わって、春になり、毎日お天道様が出て雪が消えて、地面の草も芽を出してぐんぐん伸びたってや。冬の間、ベトの中でぐっすりと寝ていたゲロ〔蛙〕もヘンビ〔蛇〕もゾロゾロと穴から出てきたと。
 冬中、ぐっすりと眠ったマムシも、あんまりあったかいので「どうら、わしもそろそろ外へ出るか」と言って穴の外へ出たと。すると、外は、もう草が生えて青くなっていたと。
 マムシは、こてしらべに運動をしてみようと動き出したども、冬中寝ていたもんだから体がいうことをきかず、スルスルとは動けずにズルズルと動いて行ったと。 〔サースー〕
 そして、ちっと動いたばっかりなのにもう、くたびれてしまってそこで寝込んでしまったてあ。それから大分寝てから目を覚まして「ああ、寝過ごしてしまった、夕方になったら寒くなってきたわい」とねぐらの穴に帰ろうとすると、マムシが寝ていたまわりをナメクジが何度もズルズルと這ったらしく、白いねばねばしたものがべったりとついていたと。
 マムシは、このネバネバが大嫌いで、その上を通ることが出来ないので困ってしまったと。そして、神様に「どうか、ここから早く出してください」とお祈りをしたってあ。〔サースー〕
 すると、地面の下から「ようし、今助けてやるからな」という声が聞こえたと。そして、マムシのすぐそばの地面から見たこともないほど太いワラビがニョキニョキと出てきたと。
 ワラビはマムシに「わしに巻きついて上って、ナメクジの跡を跳び越えろ」と言ったと。
 マムシは、大急ぎで太いワラビに巻きついて上ってピョンと跳んで、ワラビに向かってピコンと頭を下げると、そのまま山の中に消えていったと。
〔イチガサケタ〕
            文 田辺雄司 
絵 今野 望



         アリゴとキリギリス
 ある秋の天気のいい日だっとさ 〔サースー〕
 アリゴとキリギスが道端でばったり出会ったと。キリギスは「アリゴどん 、アリゴどん、どうしておめぇさんたちは、そんげぇに朝から晩まで汗水たらして働いていやっしゃるのだね。まあ、 ちったあ休んでおらが歌を聴いていきんさい」と言ったと。
 するとアリゴは「いや、おら休んでなんかいらんねぇ。今のうちに冬に喰うエサをいっぺえ探して貯めておかんとならんすけね」と言って、さっさと先に行ったと。〔サースー〕                  
 キリギリスは「ばかばかしい。あんなに、せこせこ働いてどうするんだい」とつぶやいて、また、コロ、コロコロといい声で歌いだしたってあ。
 いっぽう、アリゴのほうは、せっせとエサを穴に運びながら「キリギリスどんは、冬になったらどうするつもりなんだろう」と心配そうにつぶやいたってや。
 そのうち、秋も過ぎて、白い霜が降るようになると、キリギリスの鳴き声はぱったりと聞こえなくなったと。
 一方、アリゴの方は、お天道様が出て霜が解けるころになると穴から出てきて、いつものようにせっせとエサを探していたと。
 そうして、雨がミゾレになり、それが雪になるころ、アリゴは「ああ、よかった、これで冬中食べるものに不自由しないで暮らせるわい。そろそろ穴の入口をふさごう」といって穴ふさいだってあ。そして温かい穴の中で大勢でなかよく暮らしていたと。
 それは、寒い木枯らしのふく夜だったてあ。アリゴたちがみんなで夕飯を食べていると、入口の戸をトントン叩く音がしたってあ。今頃だれだろうかとアリ ゴが入口の穴から土を取って、のぞいて見ると、すっかりやせ衰えた、あのキリギリスだったてあ。キリギリスは「助けてくれぇ、もう何日も何にも食っていないんだ。何でもいいから分けてくれねぇか」と哀れな声で頼んだと。アリゴは「おうおう、みじょうげ(かわいそう)になあ、何でもあるから腹いっぱい食べやっしゃい」
とたくさんのご馳走を出してくれたと。
 そして、「キリギリスさん、歌ばっかり歌っていねぇで夏のうちにエサを集めておきゃしゃい」と忠告すると腹いっぱいなったキリギリスは、ひもじかったさっきのことをすっかり忘れて、「わしたちは、歌を歌うために生まれてきたんだから、生きている限り歌を歌い続けるいね」と言って自分の巣に戻っていったと。

 それから、しばらくしてアリゴは、あのキリギリスはどうしているかと心配になって、キリギリスの巣に行って見ると、キリギリスは、もう死んでしまっていたとさ。     イチガサケタ

             文 田辺雄司 絵 今野ひかり