明治節の思い出
                          田辺雄司
 私たちが小学生の頃(昭和のはじめ)は、毎年11月3日に明治節の式が本校で行われました。当日は新しいノノコに羽織りを着て登校するのでした。11月3日は昔から天気が良いと言われ、通学路の泥道の馬や牛の足跡に溜まった水に氷が張っていました。その道を高等科の生徒に私たちはつれられて登校するのでした。
 本校に着いて式の始まる時刻になると鐘が鳴り、全員が運動場に集合しました。分校の生徒は本校の同学年の生徒の後に並ぶのでした。裸足で立っているので足が冷たくて仕方ないので片足を代わる代わるに上げてこすっていました。
 いよいよ式が始まり、先ず校長先生が話をされて白い手袋をして細長い箱の中から巻紙を取りだして、うやうやしく頭を下げてから読み始めました。とても長い朗読がやっと終わると、今度は話をされました。校長先生の話は長く、足はいよいよ冷たく痛いほどでした。すると私の隣に立っていた上学年の生徒が自分のはいていたワラゾウリをそっと私の足に押しつけるようにして貸してくれました。私は、その人の顔を見て私に履けといってくれているのだと知りゾウリを履きました。ゾウリはその人の体温で暖かくその温もりが伝わってきました。
 ようやく校長先生の話が終わると今度は体の大きい年寄りの人が、また長い話を始めました。その後も続いて別の人が話しました。でも、ゾウリを借りたおかげで足が冷たくないのでそれほど苦にはなりませんでした。貸してくれた人もさぞかし足が冷たいことと思って、草履をそっとぬいで返そうとすると「まだ、いいから履いていろ」と小さな声で言ってくれました。その時は本当にうれしく、70年近くたった今でも、借りて履いた時、ゾウリに残っていたその人の温もりが私の足の裏に残っているように思います。結局、ゾウリは式が終わってからその人に返しました。

式が終わると祝の印のある紅白の粉菓子をみんながもらって家に帰って家中で分けて食べるのでした。