シナノキの皮
                           田辺雄司
 一般に用材として使う木は、6、7月に伐採すると使い物にならないといわれてきた。その頃には一年間で最も水分を吸っているので柔らかいからだという。とくに、成長の早い桐などは、この期に倒したものは「豚木」と呼んで材木商も買わないという。
 しかし、シナノキの皮をむくのは6、7月が最適な時期である。
 木は大木は皮が厚く堅いので直径30〜40pほどで真っ直ぐなものを選ぶ。この期のシナノキは面白いほどよく皮がむける。子どもの頃は、手伝っているのか、遊んでいるのか分からないほど興味をもってやったものだった。
 むいた皮は家に持ち帰り幾重にも折り曲げてタネ(家の脇の池)か川に漬けておいた。2、3日したら取り出して菜切り包丁などの背で何度もこすり取って皮の外側の部分を(薄くて黄色い和紙のような繊維)だけ取りだして日陰干しにした後、天日にあてて完全に乾燥させた。
 それを2尺(約60p)ほどの長さに折りたたんで買い付け商人に売り渡した。主に使い道はロープなどの材料とのことであった。
 自家用としても保存しておきニナワなどに入れて使った。
 ちなみに、この期に皮をむいて乾燥して売る木にキハダの木がある。現在もキハダ買い付けの商人が訪ねてくる。買った木は伐採して小枝の皮まで剥ぎ取っていく。