ホウノキの股木をつかった干し場

 私の集落は山に囲まれた所で1日の日照時間はごく短い地形にあります。
 とくに太陽高度の低い冬季は大変短く一日中ほとんど日の当たらない家もあるくらいでした。
 そんな地形の冬の生活で女衆がとくに困ったことは洗濯物を干す場所がないということでした。冬の晴天は少ないのですがたまの晴天であればこそ、たくさんの洗濯物をしたいと思うのは当然です。
 そのために、秋のうちに林に行ってホウノキの手頃で真っ直ぐなものを3.4本切ってきておきました。朴木は真っ直ぐで枝がちょうどよく出ていて股木にはうってつけの木だったのでした。



 それを洗濯日和の日になると、カンジキを履いて家の周りの日の当たる場所まで道踏みをして朴木の股木を雪に立てて竹の棒を渡してずらりと並べて干すのでした。また、日が陰ると日の当たるところに移動することもやりました。そして夕方の洗濯物の取り込み頃合いには気をつかっていました。
 とくに、3月になり晴天の日が多くなる頃には股木の洗濯干し場がどこの家にもつくられ、まさに雪国の早春の風物詩でありました。
      
文・図 田辺雄司 居谷