ネナガノヒトヨタケ  シグソヒトヨタケ



暮らしとの関わり
 9月の下旬のことだが、妻が「畑に見たこともないキノコがある」というので行ってみると、堆肥の上に軟弱な姿のキノコが数本生えていた。よく見ると傘が割れて垂れ下がっている個体もある。また、垂れ下がっている傘の先端は黒インクのように液状化している。
 試しに、個体を引きぬいて見ると、柄の基部は膨らんで再び細くなり、長く直下に伸びている。(この事がネナガノヒトヨタケと同定する手がかりの一つとなった)
 また、ほかの個体の中には、基部が大きく膨らんで白い幼菌のような形のものが無数付着して塊となっているものも見られた。
(下・右写真) これは何であろうか。WEB上で調べてみたが手がかりとなる情報は見当たらない。もし、これが幼菌であれば親菌が一日余で溶けて消えた後に無数の幼菌が地上に発生するのでは、とも想像できる。
 さらに、WEB上には「パンツにも生える」という突飛な情報もみられるが、調べてみると、ある有名な漫画家が押し入れに長くしまっておいたパンツ に発生した事から「サルマタタケ」と名付けて漫画の題材にした事に由来することのようだ。(※松本零士₋「男おいどん」)
 今のところ、暫時「ネナガノヒトヨタケ」と同定したが、「ウシグソヒトヨタケ」とも思われる。どうやらこの両者の区別は極めて微妙であるようだ。山と渓谷社の「日本のキノコ」には「ネナガノヒトヨタケと同種であるが、胞子の小型のものをウシグソトヨタケと呼び区別することがある」との解説が見られる。
 なんにせよ、ヒトヨタケ属には30種以上のキノコがあり個体の同定が難しいものが多いようだ。
 その他、興味ある情報としては、
ウシグソヒトヨタケは非常に生長が速く10日ほどで次の世代の細胞が得られることから遺伝学の実験材料とて使われているとのこと。
 また、フランスの有名なガラス工芸家のエミール・ガレの作品「ひとよ茸ランプ」は、ヒトヨタケの3段階の成長過程をモデルとしているとのことでである。(長野県諏訪市北澤美術館所蔵)←※北澤美術館HPにリンク

  上写真 2023.9.20 松美町


              成  菌-1

写真 2023.9.20 松美町

               成 菌-2

写真 2023.9.20 松美町

        老菌-1-反りかえる傘の縁

写真 2023.9.20 松美町

   成熟してヒダが黒色化、柄が薄褐色を帯びる

写真 2023.9.20 松美町

       長い根の部分-名前の由来

写真 2023.9.20 松美町

            長い根部と基部の塊根

写真 2023.9.20 松美町

         基部に見られる塊根-拡大-1
写真 2023.9.20 松美町





解 説
ナヨタケ科(従来はヒトヨタケ科)
 春から秋にかけて獣類などの糞や腐れかけた藁などに発生する。
 傘は直径2~5㎝。初めは楕円形であるが後に水平に開く。色は初め白色であるが褐色になる。
 柄は中空で長さは4~12㎝。全体が白色であるが微かに褐色を帯びるものもある。(左下写真)
 幼菌は食用になるという。しかし、アルコールを分解するに必要な酵素の働きを阻害する作用があるので酒の肴として食べることは厳禁とのことである。 
 名前の由来は「ヒトヨタケ」は、一夜で傘とヒダの部分が溶けてしまうことによる。ネナガは「根が長いこと」、ウシグソは「牛糞の上によく発生すること」による。



   老菌-胞子散布後後

写真 2023.9.20 松美町

  傘表面の綿くず状の鱗片 
写真 2023.9.20 松美町

  傘の表面の放射状の筋

写真 2023.9.20 松美町

   老菌-2 胞子散布後

写真 2023.9.20 松美町

    柄の基部のふくらみ

写真 2023.9.20 松美町

    柄の基部の塊根-1

写真 2023.9.20 松美町

 柄の基部の塊根-拡大-2

写真 2023.9.20 松美町