藁クズ(イネの下部のサヤ状部)の利用
                        田辺雄司
 昭和10年(1935)代はどこの家でも寝間には藁クズを一面に引き詰めてありました。寝るときには、その上に薄い布団を敷いて、自分が着ていたノノコ(布子→綿入れの着物)を脱いで体を覆い、その上にヨウギ(夜着)を掛けて寝ました。
 また、藁クズ用の布団皮をつくってそれに藁クズを詰めて使う家もありました。どちらも、最初のうちはもくもくして寝ても温かく気持ちが良いものでしたが使っているうちにだんだん押し詰められて堅くなってしまい保温も悪くなります。
 また、長く使用した藁クズは細かくなり粉状となるため衛生面では良くなかったものでしょう。
 私の家では冬の間たくさんの藁を使うためにすぐった藁クズがオオゾラ(茅葺き屋根裏)に保存してあるので、それを下ろしてきて入れ替えるのでした
 そして、春になりますと、どこの家でもノンバキと呼ぶ大掃除をしました。天気の良い日の午後にあちこちの家からムシロやゴザを叩くパンパンという賑やかな音がしたものでした。
 この時に、クズ布団のクズも取り出して灰を肥やしにするために畑で燃やしました。それからの季節は、気温も上がりますのでムシロやゴザの上に布団を敷いて寝ました。子ども心にも何だかすっきりとした感じがしたことを憶えています。
 また、冬季に、寝室のみならず座敷にも藁を敷いてその上にムシロを敷く家もありました。子どもの頃に母に連れられて、その家を訪ねて座敷に上がったときにモクモクして歩きにくいのでしたがとても温かい感じがしたことを忘れません。
 こうして、今にして考えてみると当時、イネはモミガラから鞘の部分まで捨てるところなく利用できる作物であったことに驚くばかりです。

(居谷在住)