シナダの利用
                           田辺雄司
 昔はどこの家にも囲炉裏があり、囲炉裏の上にはシナダ〔火棚〕がありました。冬はカンジキを使ったときにはトマグチ〔土間口〕で雪をよく落としてから、シナダにつり下げて乾かすのでした。藁ぐつも同様にして乾かしました。囲炉裏の火で温まってカンジキの雪が解けてくると囲炉裏の中にしずくがポトポトと落ちたことを憶えています。
 また、梅雨の頃にはモモヒキや山着物が乾かないのでシナダに竹を下げて、それにモモヒキをなどを下げて乾かしました。乾いたものは座敷の下方〔したかた〕のカケザに掛けておくのでした。
 シナダというと、今でも忘れられないのは、渋柿をシナダで乾かして食べたことです。
 11月に入ると、祖父に「野郎ども、山へ行って渋柿をもいでこいや」と言いつけられ長い竹竿と袋と背負い帯を持って弟と喜んで出かけるのでした。途中の山道で落ちている山栗を拾ったり、道端に生えているアキグミの実を食べたりしながら行ったものでした。
 柿の木のある場所に着くと、竹竿の先にカギを付けて、それで枝をゆすると、柿がボトボトと音を立てて草藪に落ちました。おもしろ半分に落とすので背負って帰ることも考えずについもぎすぎるのでした。
 また、その近くにはセンブリが小さい花を咲かせて生えているので父が胃の薬としていたので採って弟に持たせました。私は、竹竿を草藪に隠してから柿のいっぱい入った袋を背負って帰りました。袋は柿がごつごつして背中が痛いので大変でした。
センブリ

 家に帰ると、祖母と母がすぐに皮をむいてコデナワをたたみ針の目に通して20個くらいずつ輪にして陽の当たる場所にぶら下げて置きました。また、皮をむいた柿10個くらいをカラカサの骨で串差しにしてものをいくつも縄をかけてシナダにぶら下げるのでした。10日も過ぎると、外に干した柿が甘くなり、食べられるようになります。歯の悪い祖母は柔らかくて美味しいと喜んで食べていたものでした。シナダに下げた柿も良く乾いてシワだらけになると古俵に包んでできるだけ暖かい所に置いてしばらくすると白い粉が吹きとても甘くなって美味しかったことを今も秋になると思い出しています。