ジュウノウ(十能)

 昔は、ケシツボ同様どこの家でも囲炉裏の周りに置いてあった。とくに、囲炉裏で出たオキ(熾き)を火箸で十能にかき込んで炬燵へ運ぶ時に使用した。石黒では「ジョウナ」と呼んだ。
 囲炉裏の火が盛んに燃えて赤いオキがザクザク出ると、囲炉裏にいる大人が「いいオキが出たぞ、炬燵に入れろ」と声をかける、すると兄弟の頭〔かしら〕が、ジュウノウの上に赤々した熾きを山盛りして運んでくる、炬燵に入っていた他の子供たちは大急ぎで布団をめくり、炬燵の網を取り除く。新しくオキが入ると金属製のヘラのようなもので周りの灰をかき寄せて適度な暖かさになるように調節した。それから1時間ほどは温かかった。
 炬燵が据えられた冬の茅葺屋の座敷には囲炉裏から出る煙の香りが常に漂っていた。その香りは焚く木により異なるのであった。オオバクロモジタムシバアブラチャンなど共通性のある特に心地よい香りであった。
 ジュウノウは、そのほか風呂がまやカマドの灰を取るときなどにも使った。ジュウノウは、正にその名「十能」のとおり使い道が多い用具であった。