スミツボ     
 今日でも、特別珍しい道具というほどではないが、子どもの頃に大工の仕事をよく見物した筆者の世代には懐かしい道具の一つである。
 糸の先端についた「軽子」と呼ぶ針のついた棒を所定の場所に突き刺して墨つぼを持って移動すると、カラカラという音ともに墨を含んだ糸が引き出される。手前の決められた位置に当ててぴんと張った糸をつまんではじくと微かな音ともに鮮やかな黒線が一瞬にして描かれる。何度見ても,思わず歓声を上げたい場面であった。
 今でも、木の香りとともに大工の仕事ぶりや道具の数々を思い出すが、子どもの目には、この墨つぼが最も価値ある道具に見えたものだった。

民具補説→スミツボ