民具補説
       豆炭アンカの思い出
                大橋洋子

 昭和30年代に、「湯たんぽ」に代わって「豆炭アンカ」が普及しました。
 この豆炭アンカは長い間愛用された人気商品だったように思います。(布袋付きで売られていました)。古くなって石綿が傷むとアンカの外回りが高温になり、稀に低温火傷などの難点もありましたが、火持ちが良く豆炭一個で一晩中温かく、とても重宝なものでした。
 他にも豆炭コタツや掘りコタツにも練炭や炭の代わりに安値の豆炭が使われていました。勿論電気毛布や電気コタツも市販されてはいましたが、何より経済的な面からも人気があり50年代の中頃までは一般的にどこの家でも豆炭アンカや豆炭コタツが使われていたように思います。
 50年代後半から60年代には気軽に月賦で購入出来ることもあってか、一気に電化製品が身の回りに溢れ人々は電化暮らしに吸い寄せられていったように思います。食生活からして暮らしは都会並みになり、高度成長期のピークだったようにも思います。
 そして定かではありませんが石黒から「いろり」が消えたのもこの頃ではなかったでしょうか?…。同時に、それは昭和の終わりの時期でもありました。新たな「平成」の年号と共に、得たもの、失ったものは多く、暮らしは大きく変わりました。
 スイッチボタンを押すだけの暮らしに慣れた今、ポカポカの布団に潜り込んで大の字に手足を伸ばす度に、これ以上の幸せはないと思いながら、子供の頃に囲炉裏で暖めた夜着をそっと掛けてくれた母の姿を思い浮かべ、便利の代償に失ったものは多く、大切なものがこれからも消えてゆくような気がしてなりません。