アナイッチョウの遊びの思い出
                          大橋チイノ
 子どもの頃の冬の遊びといえば「アナイッチョウ」という遊びを思い出します。落合集落には大きなイチョウの木が4本もあったのでイチョウの実には不自由しませんでした。
 私たちの子どもの頃は女の子はスキーなど持っていませんでしたので、家の中で、お手玉とかアヤトリなどして遊んでいました。屋外の遊びはズイナベ〔雪の滑り台〕やアナイッチョウの遊びでした。
冬の落合集落

 雪がある程度降り積もった頃に村の中央〔現在の屋号八郎の家のあたり〕の平らなところをフカグツを履いてみんなで横一列に並んで進み雪を踏みしめました。2、3度踏むと雪が堅くしまって、広い遊び場ができます。寒いときには雪を踏むたびに「キュ、キュ」という音がしたことを憶えています。
 場所ができると、まずイチョウを投げる位置に、囲炉裏の灰で線を引きます。そして、その先2mほど先に湯のみ茶碗ほどの大きさの穴を作ります。穴の周りには灰を撒いて穴がよく見えるようにしました。灰をまかないと雪が一面に白いので穴の位置がよく見えなかったからです。
 それから、まずジャンケンをして順番を決めました。そして一番の人から、順番にあらかじめ皆が持ち寄ったイチョウを集めておいた中から5、6個とって穴をめがけて投げるのでした。投げ方は手を前後に振り、すくい上げるようにして投げるのでした。そして、穴に入った分は自分のものにできるのでした。一度に投げる数は特に決まっていませんでしたが、5〜6個がまとめて投げやすく多く穴に入るのでした。たくさんの数のイチョウを一度に投げてもイチョウが散らばってしまい穴に入る数はかえって少なくなってしまうのです。
 こうして順番に投げていって一巡りすると、次回は前の回で一つも穴に入らなかった人が、最初に投げ、他の人は改めてジャンケンで順番を決めました。このジャンケンもこの遊びの楽しみの一つでした。 今考えると一個も入らなかった人が次回は最初にやるという決まりは、どこか思いやりのある良いルールだったと思います。
 でも、当時の私は、賭け事のようなこの遊びには何となく後ろめたいような気がしたものでした。それは、当時、他集落では博打で貧乏した家もあったので、親は子どものうちから賭け事が好きになることを心配して賭け事的な遊びには厳しかったからだと思います。

 でも、雪に降り込められた村で、みんなが集まって楽しんだアナイッチョウの遊びは今でも懐かしく思い出されます。
 綿入れの着物を着て、しもやけで赤くふくらんだ手にイチョウをもって穴をめがけて投げ込んで遊んだその頃を、今になって想うと、遠い昔のことのようでもあり、つい昨日のことのようでもあります。
 (石黒在住)