ひとらごと  DATE20161201

          

             とんぼ

                      大橋末治

 少し前のことになるが、石黒のHPに「夕陽に集まる赤とんぼ」の映像が掲載された。数匹の赤とんぼが夕日に映し出され優雅に飛翻している様子にとても懐かしさを覚えた。羽根が触れ合うような接近した飛行をしながら自由自在に頻繁に離着陸する飛行の魔術師には、まさに、神業としか言いようがない。

 かって、とんぼの羽根を風力発電のプロペラの翼型に応用できないかということで、とんぼの羽根の模型を造り、翼型の空気力学的な特徴を調査する水槽実験に関わったことがある。ほんの数グラムというとんぼの羽根に作用する空気力を計測するのに悩んでいた頃が懐かしい。
 とんぼは、4枚の羽根を別々に動かすことが出来、全体としてその時の飛行速度に最適な翼形状を造って飛翻しているという。羽ばたき:30回/秒、速度:60q/時速で飛ぶことが出来、2億年前からの原型を維持しているらしい。2億年かけて研ぎ澄まされ、完成されたのが現在の姿と思えば、写真のような神業妙技もうなずける気がする。
 我が家の小さな庭にもとんぼが飛んでくる。普通のありふれたとんぼであるが、優雅に飛翻する雄姿にはついつい見とれてしまう。出来れば幼い頃出会ったことのある真っ赤な赤とんぼや濃紺の目の覚めるようなトンボに出会えたらと願っているがこの辺りでは実現しそうもない。

 とんぼが現れるからには、何かとんぼの餌になる獲物がいるのだろうと気にしていると、やはり、それらしきものがいた。雑な推測に過ぎないが、それは「蚊」と「瓜蝿(この地域では“オショウ”と呼んでいる)」であろうと思われた。蚊は病原菌を媒体し、瓜蝿は名前の通り瓜系の植物の葉をあっという間に食べ尽くす害虫である。どちらも繁殖力が凄まじい。

 これらの害虫の急増は、休耕地の増加で農家の方が農薬を使わなくなり害虫発生率が急上昇している原因らしい。家の近辺を見渡すと、新興住宅が増える中で、この地域の特産であるみかん畑・ぶどう畑・ふき畑など荒れ果てた広い農地が急増している。この主要原因は、農薬散布に対する新興住宅からの苦情や耕作者の高齢化と共に継承者が不在となったためとのことである。少子化と子供の高学歴化により農業が敬遠される傾向も加勢しているようだ。この現象は、全国規模でも拡大しているようである。

 農業は国を支える最重要産業であるとは、誰もが認めている。しかし、多くの若い人が積極的に農業に眼を向けたくなる政策がいつまでも足踏み状態で進展していないようだ。一日も早い新農業政策の実現を期待したい。そこには、是非、2億年もの歴史を持つ、とんぼも飛び交っていて欲しいと願っている。

                     おわり
※  晩秋の赤トンボ-ビデオ資料