湯神様-松之山に行った温泉エピローグ
 板畑、左衛門の戸主市太郎は、大正時代に中後部落の中間地に当たる字「雪積もり」地内に湧き出している硫黄鉱泉を温めて風呂屋を開業した。
 客の注文に応じて、木桶の一人用薪炭焚きの風呂に火を入れて半農半商的な営業を始めた。湯は神経痛、吹き出物の療養に効用が高いとの評判を得て、近郷より湯治に訪れる者が相次いだ。駄菓子と缶詰を小売りして、酒好きが入浴後に一献を傾ける居酒屋ともなった。
 市太郎は信仰心が強く、鉱泉の湧き出口の上の杉林の中に祠を建立して湯神様として祀った。

 文-中村治平